ひな人形のできるまで

衣裳着人形

衣裳着人形は、人形とは別に衣裳を作りそれを着付けたものです。通常頭と胴体とは別々に作成し、胴体が出来上がった後に頭を取付けて仕上げます。

頭・胴の製作


[1]原形づくり

人形の構想がまとまったら、大きさ、顔の表情、髪型などを考えながら下絵を描き、それに基づいて桐材を彫り、頭の原形を作ります。


[2]釜いけ

溶かした松ヤニを釜木(かまき)と呼ばれる木型に流し込み、雲母の粉をまぶした原形を押し当てて、女型(めがた)と呼ばれる凹型を作ります。 釜木は角材を刳り貫いて作ったもので、顔の部分と後頭部に分けて作ります。


[3]生地づくり

虫のつかない桐の木を粉末にし、これに正麩糊(しょうふのり)を良く混ぜ合わせて練り上げて桐塑(とうそ)と呼ばれる粘土状の素材を作ります。

 


[4]桐塑詰め(生地押し)

2つに分かれた釜木の双方の型に、頭の中が空洞になるように、中央をへこませながら生地を型に押しつけます。中を空洞にするのは、頭を軽くし、乾燥を速め、狂いが生じないようにするためです。 生地を詰め終わったら、顔の部分と後頭部の部分の釜木の位置を合わせて重ね強く押し付け、ひとつの頭の形にします。頭の形になったら、生地を取り出し小刀で表面を滑らかに仕上げます。


[5]乾燥

頭を乾燥室に入れて乾燥させます。


[6]彫塑

乾燥後、生地表面のでこぼこを、やすりをかけて補正します。頭の場合、乾燥中ひずみが出たりすることが多いので、顔の形をよく見ながらきれいに修正します。


[7]目入れ

貝殻の内側を粉末にした、真っ白な胡粉(ごふん)を膠(にかわ)で練り餅状にします。この餅状のものを眼窩に詰め、その上にガラス製の目を置きます。

このとき、作ろうとする人形の表情を考え、左右の目の向きや位置がばらばらにならないようによく注意して目線を揃えます。


[8]地塗り

胡粉(ごふん)を膠(にかわ)で練って餅状にしたものを湯に溶かし、頭全体に刷りこむようにして塗り、よく乾燥させます。


[9]置上げ

胡粉と膠を練り、地塗り用よりも濃度の高いクリーム状にします。 細い筆の先にこのクリームを取り、地塗りの済んだ頭の目、鼻、口、あごなど各部分の形を整えるように盛り上げます。この作業を置上げといいます。置上げをする部分によって胡粉の硬さを調整したり、量を加減したりしながら盛り上げます。これが人形の顔の表情のもととなります。


[10]中塗り

地塗りに使用したものよりも濃い目の胡粉の液を用意します。 これを全体に良く刷りこむように塗ります。最後に胡粉の液を入れた桶の中に頭を浸し、顔を下向けにして引き上げながら、余分な胡粉を垂らして落とします。胡粉を垂らしきる間際に顔を上に向け、目、鼻、口などにたまっている胡粉を筆で取り除きながら、微妙な修正をして乾燥をさせます。


[11]切出し

胡粉の塗りムラを取り去るために、水に浸した柔らかい木綿の布を固く絞り、頭を軽く拭いて胡粉のムラを取ります。乾燥後、目、鼻、口などの置上げをした部分を小刀で削って形を整えます。


[12]上塗り

上塗りと仕上げ塗り用の胡粉の液を準備します。胡粉(ごふん)を膠(にかわ)で練ったものを、熱湯につけてあくを抜きます。それを更に湯煎にかけ、沈殿物を取り除いた上澄みだけを使います。 上塗りは、この充分に生成した胡粉の液を、上塗り用の刷毛で丁寧に塗り、乾燥させます。この作業を5回以上繰り返した後、補正、磨きを行います。その後、更に、仕上げ塗りを数回行います。

※胡粉の製法と塗りの方法は、江戸時代の初期から伝えられている伝統的な技法です。


[13]面相描き

眉毛や髪の毛の生え際などを墨で描き入れ、唇に紅を差します。


[14]筋彫り

生え際に沿って、髪の毛を植え込むための溝を彫ります。


[15]毛吹き

髪にはスガ糸と呼ばれる、ヨリをかけない絹糸を黒く染めた糸を使います。糸を櫛で良くとかし、先をきれいに切り揃えて糊付けします。 髪を筋彫りした溝の中に順々に目打ちで植え込みます。


[16]結い上げ

植え込んだスガ糸をまとめ、それぞれの髪型に結い上げます。


[17]胴組み

人形の胴には、稲藁を一定の太さにまとめた藁胴を使います。 胴組みはまず、藁胴の脚の部分に肉付けした針金を差し込んで固定し、その回りに綿や木毛を巻きつけます。そして、その上に和紙を巻きつけて形を整えます。腕の部分も脚と同じように行います。腰の部分にも綿や木毛をつけて腰の形を整え、その上に和紙を巻きつけて仕上げます。


着付け 仕上げ


[18]布地選び

作ろうとする人形の種類や使用する個所によって布地の柄や配色などを決めます。


[19]仮衣裳・裁断・縫製

頭の大きさを元に、背の高さや手の長さを割り出して仮の衣裳を作り、何度もそれに修正を加えながら実寸法を決めて裁断します。 次に表地と裏地を縫い合わせます。袖や襟、身頃などを縫い合わせそれぞれの衣裳を完成させます。


[20]着せつけ

まず最初に、襟を重ねて首回りに巻きつけ糊付けをします。ついで下着、袴、上着などを順次着せ、人形の姿形に合わせて肩や胸などを綿や木毛で肉付けしながら整えます。


[21]振付け

作ろうとしている人形の姿を頭にイメージしながら、曲げる部分に目打ちを当てて手足に角度をつけ、振付けをします。衣裳に自然の折れ目が出来て、人形が生き生きとした姿になるように作ります。


[22]頭付け

最後に頭を取り付け、顔の向きを決め、衣裳や髪の毛の乱れを直して完成します。